イブに剔られた話

大阪に来て業務内容が変わった。

という書き出しで、ここ最近の登山のことを書き出そうかと思ったら、流れに流れて眼鏡に対する恨み辛みをつらつらと記す文に堕してしまった。

とまれ、業務内容が変わったので、念願の土日休みを手に入れた。以前とは打って変わって山に行きやすい環境に…! と思ったのは業務もまだ試運転の2ヶ月ほどで、あっという間に残業街道に突っ込んでしまい、仕事終わりにトレーニングする余力もない今日この頃。特に2月からはヤバイ。

そしてこの暖冬のせいで冬山という冬山には八ヶ岳東面の上ノ権現沢〜ツルネ東稜にアイス混じりのバリエーションしにいったきりで、その他はちょいちょいクラックにいそしんでおります。しかしなにせ単身赴任の身。3週に一回は東京と大阪とを結ぶ新幹線に身を預けているので、思うように登る、とは行きません。

こういう状況を打破しようとするモチベーションというか気力が、バリバリやる人とは決定的に違うんだなあとか思いながら、無理して火傷するのは御免だし、現状楽しめる範囲でやるほかあるまい。

 

瑞浪でのクラックでのこと。エリアに入ってすぐのところに「秀則コーナー」があり、まあきれいなコーナークラックで、決まりやすいフィンガーとステミングをちょいちょいと続ける快適なルートなわけですが、その隣にピカッっと稲妻が走ったような割れ目があります。

瑞浪での代表ルート「イブ(5.11c)」ですね。はじめて瑞浪に行ったときは、「なんじゃこれ、これ登る人いるのかしら」と思ったほど薄いフィンガーサイズのクラックが続いており、気の遠くなるような思いを抱いたわけですが、この間行ったとき「これはいけるかもしれん」と急に思いはじめ、割れ目に指を添えてみるとジャストサイズ。男性の割に指の細い、というか肉の薄い僕の指とは相性が良さそうだ、とそう思った翌日にトライしてみました。

「11cオンサイトや!」と、実績もないのになぜか調子づき、取りつくこと3メートル。垂直に立つ壁はあまり腕への負荷もなく、「おっいけるいける」とナッツをセットしつつ、両指を第二関節までいれてロックします。フットホールドも拾えないこともない大きさだし、たいしてビビリもでない。「フーッ」とホールドに足を落ち着けて、呼吸を整えたところ、バッっと急に体が落ちました。一瞬のことで四肢のどこが疎かだったのかもわからない有り様。おそらくは足が滑っただろうて、決まってた右の指手が抜け残り、一気に体重の乗った指は岩角に食い込み、アイタタタタタタタタ。皮膚を越えて僅かに肉を剔る。剔れてボリュームダウンした右人差し指はクラックから掃き出され、ようやくロープに体重が乗った。「ナッツしっかり効いててよかった…」と思うやいなや、早速指先が大変痛いので敗退。止血止血。

その後もいくつかやさしいルートに手を出してみたけど、体が落ち着かず、ここに掛けないほど散々な出来。まだまだ先は長いなあ。